Français Orale のクラスで一人一回、
自国についてプレゼンをするという
機会がありました。
アメリカの元企業役員だという年配男性は
自由の女神(パリにもある)の話。
ベトナムの神父さんは、ベトナムの農業の話。
シリアの神父さんは
キリスト教で最も古い教会は、欧州ではなく
シリアのダマス?に在るという話。
日本人の私は、地震と津波について話すことにしました。
しかし。
いざプレゼンを始める前に、念のためと思い
「地震を体験したことがあるか」どうか
クラスの皆に質問したところ
「何と日本人以外は、地震未体験」
という事実が発覚。
世界はそんなものなんですね…。
皆の不思議そうな目を見て驚いた…。
そしてプレゼンの難易度が上がった!
地震がどんなものか想像できない人が、世界の大多数
うちのクラスの生徒の国籍は、
上記の3カ国に加えて
ベネズエラ、ロシア、韓国、台湾…だったか。
先生はバリバリのパリッ子だそうで
当然、地震は未体験である。
(=先生の助けは望めない)
そもそも地震や津波とは何なのかから
説明しなきゃいけなかったので、
大変焦りました…
雪を見たこと無い人に
雪とは何かを語るのは大変でしょ。
それでも、皆さんがテレビで
津波の映像等は見ていたらしいので、
何とかプレゼンを開始。
最初は、みんなピンと来なかったみたいで
プレゼンしながら
その表情を見ているのがしんどかった…。
自分でも下調べをしているうちに知った事ですが
「マグニチュード」は世界共通の数字だけど
「震度」の数字というのは
実は国や地域によって違うのです。
私は元建築屋さんなので…、地震の多い日本で
建物に関する規制がどうなっているか
そもそも耐震基準とは何かを
ごく簡単に説明してみました。
マグニチュードと震度の違い。日本の地震の頻度。
「マグニチュード」というのは
地震の大元(震源)で発生した
エネルギーの強さの表現であること。
そしてその「震源」からの距離等によって
同じ1回の地震でも
場所が遠ければ震度の数字は小さくなるし
震源に近ければ震度の数字は大きくなること。
現在の日本の耐震基準は
この「震度」を基準に設定されていること。
そして建物の寿命は100年弱だと考え
その100年の間に、
震度5程度は数回、震度7が1回は
起きる可能性があると想定していること。
そもそも地震の無い国の生徒達は
そんなにしょっちゅう地震が起きるのか?と
まずはここで驚くのである…。
想像できん!みたいな反応。
というか、もっと軽めの地震なら
関東の場合はしょっちゅうなんですけどねー。
耐震基準って、ざっくり何なの?
建物を支える柱や梁がこわれて、内部がつぶれ、
人が内部に居られる空間がなくなるのを
「倒壊」といいます。
建物の寿命とされる100年弱の間、
想定通りに震度5程度が何度かあっても
そのまま住めるように作ること。
そして震度7で建物のあちこちが破損しても
「倒壊」には至らないように
作らなければいけないと法律で基準を定めていること。
震度7で倒壊させないようにするんだけど
建物の「無傷」が基準ではなくて
その内部にいる人の生命を守ることを
せめてもの基準にしていること。
何故ならそれほどに地震の力は強いから。
地震の脅威、自然の驚異には
たとえ世界で最も進んでいると言われる
日本の耐震技術でも
太刀打ちできないのだという現実。
その辺りまで話す頃には、
各国の学生達は少し緊張しながら
話を聞いてくれていました。
日本の建物、耐震の仕組みとは。
それから…日本の耐震基準は
今も徐々に厳しくなっていること。
加えて、いまの新しい建物は
地震で壊れないように丈夫に造っているから
いつか皆さんが日本を訪問しても
心配ありませんよ…とも伝えました。
(日本は怖い場所だと思われないように。)
なぜなら、日本では
建物にあえて壊れやすい部分を作っておき
地震の時に建物にかかる力を
そこにのがすようにしていること。
つまり、構造上で一番大切な柱や梁が
地震で壊れないように作っているんだ、と話すと
ちょっと「日本建物すごい」みたいな反応が。
一応、耐震の仕組みがちゃんと伝わってる?
みたいで嬉しかったです。
日本人でも知らない方が多いんですが、
一戸建てでもマンションでも
例えば天井と壁の継ぎ目など(ものによる)
建物の中には
わざと地震や台風で建物にかかる力を
逃すための箇所があります。
今回の震災で、首都圏でも、そうと知らずに
「自分の建物が破損してる!」と
必要以上に狼狽えてしまった人たちが
かなり居たようです。
かつてのヒューザーの耐震偽装事件の時に
この手の技術について報道で説明されていたけど
皆すぐに忘れてしまうのだろう。
津波は、建築基準ではどうしようもないって話
そしてもう一つ、びっくりされた事。
地震に関しては「耐震基準」があるけど
津波になると
そもそも建築強度の問題ではなく
どこにどんなものを建てるか
「都市計画」の問題になってくるのだと説明しました。
スリランカの牧師さんは
2004年に死者が4万人近くにものぼった
スマトラ地震があったので
津波の怖さをよく知っていました。
一方で、他の殆どの生徒は
普段の海で見る「波」と「津波」の
破壊力の違いがそもそも分からない状況。
この辺になると
私のフラ語レベルでは説明不可能なので…
黒板に絵をかいて解説しました!(お絵かき便利)
下のような絵を描きつつ
「波」と「津波」のパワーの大きさの違いを
何とか説明したところ、聞いてた先生も含めて、
一瞬みんな止まってしまいました…。
世界の終わりみたいに思ったのかも。
だから、建築で津波対策をするのなら
津波が来たときに逃げ込める「避難用の建物」を
せめていくつか建てることだけ。
(学校や役所・病院等の丈夫なRC建築物に避難。
日本にも津波避難用の塔が
わずかですが存在しています)
でも、地域住民全員が避難できる建物を
作るのは無理だし「地盤」の問題もある。
今回の東北地震にて「液状化」と「津波」が
発生した地点では、
鉄筋コンクリート製かつ地中の支持基盤まで
きちんと杭を打った建築物でさえも
その地中杭まで引っこ抜かれる形で
建物が倒れた事例が発生している。
「耐震基準」を変えるより
「都市計画」で街を作り替えていく方法は
何十年という時間がかかってしまうから、
津波対策は相当な難題といえる。
◾️2022年追記:1995年の阪神大震災では、建物の倒壊が原因(圧死)でなくなった方が8割を超えていた。2012年7月の警察白書の発表によると、東日本大震災では圧死が1割を切り、津波で亡くなった方が9割とされている。
アウェー感を乗り越えた先に。
そもそも、ここはパリ。
災害を前提として作られていない街。
この街で、地震を体験したことが無い相手に
まだまだ不自由なフランス語で
状況説明するという、超アウェーな状況…。
プレゼンしながら、
テーマ選定を間違えた!と思ったのですが。
後々、意外にも他国の留学生から
あの話はとても興味深かったと
声をかけられるようになりました。
そのひとつひとつの声かけに
まだ十分にフランス語で答えられないのが
勿体ないんだけど。
そしてプレゼン以降、
短気だったOralの先生の
私に対する反応が少し変わりました…
「この学生はあんまり喋れないけど、
何やら話す内容を一生懸命考えてるらしい」と
少し言葉を待ってくれるようになった気がするのです。
私があまりに喋れないので、以前は
「この生徒は、話すべき内容さえ持っていない」
と思われていた模様…
地震について、たった15分話すのに
予習に一晩かかりました。
でもこういう機会を得られてよかったと
今は思っています。
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